なぜ今、すべての会社に「編集者」が必要なのか

このコラムは、プラスアクトで編集とプロジェクト全体の設計に関わっている筆者が、日々Webやコンテンツ制作の相談を受ける中で感じていることを、編集者の視点から綴っています。

最近の相談で増えているのは、「何を作ればいいか分からない」という話ではありません。「やることは山ほどあるのに、どこから考えればいいのか分からなくなっている」という状態です。話を聞く前から、思考が整理しきれず、判断が重くなっている空気が伝わってくることがあります。

実際、多くの方は何もしていないわけではありません。Webサイトはある。SNSも更新している。広告や動画にも取り組んでいる。外から見れば、きちんと動いている会社です。それでも、判断のたびに小さな違和感が残る。この積み重ねが、「前に進んでいるはずなのに、手応えがない」という感覚につながっていきます。

ここで大事なのは、この状態を「迷っている」「ブレている」と片付けないことです。むしろ逆で、考えているからこそ起きている現象だと思っています。問題は、考えていないことではなく、考える順番が整理されていないことです。

なぜ今、編集者が必要なほど判断が重くなっているのか

情報やメディアイメージ

情報が足りない時代は、すでに終わっている

少し前まで、企業の課題は「情報が足りないこと」でした。だからWebサイトを作り、情報を発信し、とにかく外に出す。それ自体に価値があった時代です。

しかし今は違います。情報はすでに十分すぎるほどあります。検索すれば、答えらしきものはいくらでも出てくる。SNSを見れば、他社の事例やノウハウも簡単に目に入る。問題は、情報がないことではなく、情報が多すぎることです。

受け手側は、どれを信じ、どこから理解すればいいのか分からなくなっています。その結果、「よく分からないから、何もしない」「とりあえず今は様子を見る」という判断が増えている。発信が届かない理由は、声が小さいからではありません。受け手が判断できない状態に置かれているからです。

判断が増えすぎた結果、止まってしまう

発信する側も同じです。選択肢が増えたことで、判断の回数が爆発的に増えました。どの媒体を使うか、どの切り口で語るか、どの表現が正解か。その一つひとつに「失敗したくない」という意識が乗ることで、判断はどんどん重くなっていきます。

「全部やった方がいい気がする」「削るのが怖い」。この感覚は、とても自然です。ただ、この状態のまま進むと、動いているのに前に進まない、という感覚が強くなっていきます。

「正しいこと」を並べるほど、伝わらなくなる

全部正しいのに、何も残らない現象

多くのWebサイトや資料を見ていると、書いてあること自体は正しいものばかりです。理念も、事業内容も、実績も、どれも間違っていない。それでも、最後まで読んだあとに「結局、この会社は何が一番なんだっけ?」となる。

これは、珍しい話ではありません。むしろ、よくある話です。

原因はシンプルです。全部が同じ重要度で語られているからです。言いたいことが多く、削れない情報が積み上がるほど、伝えたい核がぼやけていきます。

実際、私自身も「ちゃんと伝えよう」とすればするほど、何を一番伝えたいのか分からなくなっていった経験があります。

誠実さと伝わりやすさは別物

ここでよくある誤解があります。「全部伝えた方が誠実だ」という考え方です。確かに、情報を隠さないことは大切です。ただ、編集者の立場から見ると、全部出すことと、伝わることは別です。

必要な情報を、必要な順番で差し出す。そのために、あえて後回しにする情報がある。これは不誠実ではなく、むしろ受け手に対する配慮です。

私が編集という考え方に行き着いた理由

取材の様子イメージ

制作を重ねるほど、違和感が残り続けた

最初から「編集が重要だ」と思っていたわけではありません。いいデザインを作ること、分かりやすい言葉を書くこと、それが伝わるための近道だと考えていましたし、実際に成果が出ることもありました。

ただ、仕事を重ねるほど、同じところで止まる感覚が強くなっていきました。見た目は整っている。説明もできている。それなのに、「次に何を決めるべきか」が見えてこない。前に進んでいる実感が持てない。この違和感が、ずっと残り続けていた。

情報は増えたが、判断は増えていなかった

取材やヒアリングで集めていたのは、大量の情報でした。経営者の想い、現場の声、数字、将来の構想。どれも重要で、削れないものばかりです。

ただ、ある時気づいたんです。情報は増えているのに、判断は増えていない。話せば話すほど材料は増える。でも、「で、次に何を決めるのか」は見えてこない。これは制作の問題ではなく、考え方の問題だと腑に落ちました。そこから、編集という考え方に行き着きました。

編集とは、何をする仕事なのか

編集作業イメージ

編集は文章のテクニックではない

編集という言葉から、文章を整える人を想像されることがあります。もちろん、それも編集の一部です。ただ、実務として向き合っていると、編集の本質はそこではありません。

編集とは、「何を言うか」よりも、「何を言わないか」を決めることです。限られた時間やページの中で、どこに重心を置くかを決める。その判断こそが編集です。

編集は「判断できる状態」をつくる仕事

編集は、答えを出す仕事ではありません。考える順番を整え、判断できる状態をつくる仕事です。誰に向けて、何を一番に伝え、どこで理解してもらい、どこで次の行動につなげるのか。その構造を設計することで、初めて制作や発信が意味を持ちます。

編集という考え方を、実務ではこう使っています

実務としての編集は、考える順番を整えること

ここまで読んで、編集という考え方そのものには納得できても、「それが実際の現場でどう使われているのか」は、まだ少し距離を感じている方もいるかもしれません。編集は抽象的な思想や理論として語られることも多いですが、私自身は、あくまで実務の中で使えるかどうかという視点で向き合ってきました。現場で役に立たない考え方は、どれだけきれいに語られていても、意味を持たないと思っているからです。

編集という言葉を使うと、文章を整える仕事を想像されることがあります。もちろん、それも編集の一部ではあります。ただ、実務として扱っている編集は、表現の話よりもずっと手前にあります。何をどう見せるかを考える前に、そもそも何から考えるべきか。その順番を整理することが、編集の出発点です。

現場では、「何を優先すべきか分からない」「判断のたびに迷いが生まれる」「決めたはずなのに、また戻ってしまう」といった状態がよく起きます。実務における編集は、こうした状態に対して、考える順番を一度並べ直すことから始まります。誰に向けた話なのか。何を一番に理解してもらう必要があるのか。どこで判断してもらいたいのか。この順番が整理されていないままでは、どれだけ表現を工夫しても、発信や制作は前に進みにくくなります。

制作の前に編集が入ると、判断が軽くなる

プラスアクトでは、デザインやコピー、具体的な施策の話に入る前に、編集者の視点で「考える順番」を整理するところから関わっています。何を一番に伝えるのか。誰に向けた話なのか。どこで理解してもらい、どこで次の判断につなげたいのか。この整理ができていないまま制作に入ると、途中で迷いが生まれやすくなります。

逆に、最初に編集が入っていると、制作中の判断は驚くほど軽くなります。意見が割れたときも、「どちらが正しいか」ではなく、「今回の目的に合っているか」で判断できるようになる。編集が前段にあることで、やることが増えるのではなく、やらなくていいことが自然と見えてきます。

編集は特別なテクニックではありません。考えを整理し、順番を整え、判断できる状態をつくること。その積み重ねが、結果として制作や発信を前に進めていきます。

編集が抜け落ちた現場で起きること

現場で起きてしまうことのイメージ

実行だけが積み上がる怖さ

説明は上手くなる一方で、決断は遅くなっていく。「誰のための発信か」と聞かれて、即答できない。

これは担当者の能力や姿勢の問題ではありません。考える工程が整理されないまま、実行だけが積み重なっている状態です。その結果、疲弊し、「やっているのに進まない」という感覚が強くなっていきます。

編集が入ると、何が変わるのか

やらないことが決まり、前に進める

編集が入ると、やることが増えるわけではありません。むしろ、やらなくていいことが明確になります。優先順位が整理され、判断が軽くなる。その結果、現場の動きが自然と速くなる。

これは精神論ではなく、構造の話です。編集は、現場を楽にするための、かなり現実的な技術です。

編集とは「考える順番を取り戻すこと」

発信しているのに手応えがない。説明はできるのに一言で言えない。施策は増えているのに判断が重い。もし今、そんな感覚があるなら、それは失敗ではありません。考える順番が整理されていないだけです。

編集とは、考える順番を取り戻す仕事です。その順番が戻れば、次にやるべきことは自然と見えてきます。だからこそ、今、編集者が必要なのだと思っています。

編集について、少し話してみたい方へ

「一度ちゃんと整理した方がいいかもしれない」と感じたなら、その感覚は正しいです。プラスアクトでは、制作の前に、編集という視点から話を聞いています。まだ課題が言葉になっていなくても構いません。今、どこで立ち止まっているのか。その状態から一緒に言葉にするところから始められます。

 

コラムを読み終えて、
少し立ち止まった方へ

「何をやるか」よりも先に、「考える順番」が崩れているかもしれない。もし読みながら、そんな違和感がどこかに残っていたなら、それは今のやり方が間違っているのではなく、一度整理するタイミングが来ているというサインだと思います。

プラスアクトでは、制作や施策の話に入る前に、編集者の視点で、今の状況や考えを整理するところから向き合っています。まだ課題が言葉になっていなくても構いません。「何が引っかかっているのか分からない」という状態でも大丈夫です。

まずは現状を聞かせてください。考える順番を整えることで、次に進むための判断が見えてくるはずです。

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